現役女性医師より:医師を目指すにあたって考えておきたいこと(後編)

前編では、医学部受験~医学部での学生生活についてお伝えしました。今回は、医師になった後の働き方についてお伝えしたいと思います。

医師の現実:想像以上に過酷

以前、東京医科大学などが入試において年齢や性別で差別を行っていたことが発覚し(2018年)、世間を賑わせる大きなニュースとなりました。世間一般の反応は「このご時世に男女平等でないなんてあり得ない」というものでした。しかし現役医師たちの反応は「差別ではない。むしろ、そうしないと医療現場が回らない」というものが大半でした。

病院勤務医は「当直業務」が必須です。当直は夜間に受診する患者さんの対応を担い、一晩寝ずに働くことも多いです。最近は、当直明けの午後に帰宅できる病院も出てきましたが、帰宅せず通常業務をこなす病院が大半です。平日であればその翌日も通常勤務で、概ね朝8時~翌日20時の36時間連続勤務となります。週1回程度の病院が多いですが、更に多く当直業務をこなす医師もいます。

当直業務以外に「オンコール体制」という制度もあります。当直医師の専門外の患者さんが夜間受診した時に、緊急性があれば当直医師より呼び出しがあります。呼び出しを受けたオンコール医師は緊急対応のため、病院に駆けつけなければいけません。オンコールは自宅待機ですが、お酒は飲めませんし遠出もできませんし、呼び出しがなく待機のみであれば給与も発生しません。また、主治医をしている入院患者さんの病状悪化の際も、呼び出しがかかり、必ず駆けつけなければなりません。

そして最近は、世間の医療に対する視線も非常に厳しいです。過酷な労働を行いながら出来うる限り最大限の医療を提供しても、結果が伴わないこともあります。それを「医療ミス」として訴えられれば、医学知識の少ない裁判官の判断で理不尽な敗訴となってしまうことも稀な話ではありません。そうなった際は多額の賠償金の支払いが必要です。(ただし、医師賠償責任保険があり、大半の医師が加入していますが、いずれにしても裁判等に時間や手間はとられることになります)

女性医師の働き方について

医学部は卒業するまでに6年、研修医2年も義務であるため、実質8年間は身動きがとれません。その制約は、平成30年度より始まった新専門医制度によって更に3年間延長されました。医学部6年・研修医2年・専攻医3年の計11年間の拘束です。18歳で入学したとしても、最短で29歳です。その間に結婚・出産をする女性医師も多くいますが、男性医師や独身の女性医師のように全力で働けず、離職してしまう女性医師もいます。また医師になり立ての修業期間は非常に多忙です。異性との出会いも限られ、華の20代はあっという間に過ぎ、(時代錯誤な表現ではありますが)行き遅れる女性医師も後を絶ちません。女性として魅力的であっても、「女性医師は高飛車なんじゃないか」というイメージや「自分より給料が多い女性は嫌だ」と男性から敬遠されることもよく耳にします。

また、女性医師は「出産」という女性にしかできないライフイベントを抱えています。産前産後は、当直業務やオンコール業務、急な呼び出しには対応できません。女性医師の配偶者は医師や会社員など多忙な男性であることも多く、家事育児を女性医師が大半を担う場合がくなります。

家事育児をしながら、医師の業務をこなすことの大変さを少し想像してみてください。とても大変だと思いませんか。家事育児をきちんとしながら、フルタイムで男性医師と同じ労働量をこなせる女性医師も少数ながらいます。しかし、それは両親や配偶者のサポートがあり、気力・体力に溢れる一部の女性医師に限られます。また、元々は労働意欲が高い女性医師でも、配偶者や子供ができたらゆっくりした時間を持ちたいと願うようになるものです。

東京医科大学の不正入試は本当にあり得ないのか

それらの事情を踏まえて、もう一度先述の東京医科大学の問題を考えたいと思います。男性医師や未婚の女性医師が「10」働けるとしたら、既婚の女性医師は「4~6」程度しか働くことができないことが多くなります。既婚女性が関与できない労働については、男性医師や未婚の女性医師がなんとか支えていてるのが現状で、世間で認識されている以上に過労死や追い詰められて自殺をしてしまう医師も存在しています。こうした実状を踏まえると、やはり男性医師は多い方が望ましく、男性を優先した東京医科大学などのことを必ずしも「男女差別」と紋切り型に断罪できるものでもありません。

なぜそれでも医者をするのか

医師は高給取りと言われていますが、下積みの期間は低賃金ですし無給医も実際に存在し、世間で思われている程、割のいい仕事ではありません。また、健康を削って働き訴訟リスクも鑑みると、割に合わないと嘆く医師もいます。

では、それでもなぜ医師をするか。それは「患者さんに良くなって欲しいから」です。医師は患者さんの治療において、薬を処方ができ、その他大きな裁量権を持ちます。勿論、日夜患者さんの近くで観察をする看護師さんをはじめ、医療従事者みんなの協力があってのことです。裁量権があるから偉いと勘違いする医師もいますが、「患者さんの治療を決定しその最終責任を医師が負う」ということです。過酷な労働は、使命感や誇りが支えています。元気な赤ちゃんが生まれて欲しい。急性疾患であれば、病気で弱っていた人が元気になり笑顔になる姿がみたい。慢性疾患であれば、病気と付き合いながらも生活できるサポートがしたい。終末期の看取りは、少しでも苦痛の少ないように死を迎えて欲しい。決して、高い給料を貰って偉そうな顔ができるから、過酷な労働をしている訳ではないのです。

医師の仕事は、人間の「生老病死」すべてに関わることができます。患者さんは老若男女、貧しい人からお金持ち、マナーのいい人や悪い人、様々な人が病院を訪れます。「聴診器を通じて社会を覗くことができる」とも言えるでしょう。

長くなりましたが、以上が「医師を目指すにあたって考えておきたいこと」です。あくまで個人的な考えであり、他の医師はまた別の考え方を持っていると思います。しかし「患者さんのために」と考えている医師が多くいるから、日本の高い医療水準が保たれています。それらを踏まえた上で、医師を目指してほしいと思います。受験勉強も過酷なものだと思いますが、ぜひ頑張ってください。応援しています。

以下、医学部にしようか迷っている方向けに、2点ほど補足しておきます

(補足1)AI化について

画像診断技術は、今後AIが台頭すると言われています。AIの判断を人間が最終確認をするという時代が来るかもしれません。それを意識して、胃カメラなど手技を必要とする科目を専攻する医師も増えてきています。
駅の自動改札化によって駅員さんがゼロになったわけではないのと同様に、AIのような自動化が進んだからと言って医師がゼロになるわけではないと思います。もちろんAI化の影響はあるでしょうが、AIにはできない領域がまだまだ多くを占めています。

(補足2)医師以外の道

医学部に入ってから医師にならない人はごく少数ですが、たまにコンサルティング会社に就職して経営を学んで医院開業を専門としたり、法科大学院に進み弁護士となり医療訴訟を扱う方もいます。また、起業して医師の観点から社会改革を試みる方も出てきています。

(注)この文章は、現役医師のharuさんに執筆をお願いしました

当サイト及びアプリは、上記の企業様のご協力、及び、広告収入により、無料で提供されています